取締役 監査等委員井伊 雅子
2021年に社外取締役に就任してからの5年間は、三菱重工グループにとって大きな変化の時期でした。SpaceJetの開発中止を決断する一方、脱炭素や国家安全保障に対する意識の高まりという世界的な潮流を捉え、強い事業をさらに伸長させる方針を明確にして経営資源を集中してきました。この結果、GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)で世界トップクラスの地位を確固たるものとするなど、経営改革の成果が出てきています。さらに伊藤社長が経営の方法論として「ITO」(Innovative Total Optimization)を掲げ、さらなる改革を進めるところを間近に目にすることができています。これは私にとって非常に貴重な経験です。
取締役会の役割は、中長期の視点から経営を監督することだと考えています。資本市場からの期待が高まるほど、短期的な株価の動きや数値目標の達成確度に意識が向きがちです。しかし、当社グループには安全・安心の実現等の社会課題の解決に貢献できる技術があり、またそのような役割を担っています。社外取締役として、短期的なものの見方とは一線を画し、中長期的視点で社会に提供すべき価値は何か、という視点から、将来に向けた会社の取り組みを後押しすることを大切にしています。
取締役会や取締役懇談会では、事業の状況や成長戦略について丁寧な説明を受けています。また、事業ポートフォリオに関する議論も行われています。議論のための資料も充実しており、質問にも適切に、また速やかに対応してもらえます。限られた時間でより深い議論を行うには、説明の要点を絞り、質疑の時間を十分に確保することが重要ですが、そうした環境もしっかり整備されていると感じています。これから次期中期経営計画策定の議論が本格化していきますが、数値計画については、経営環境の変化がかつてないほど激しいものとなっていることも考慮し、環境の変化に応じて柔軟に見直すこともあらかじめ念頭においてほしいと考えています。そのような経営姿勢が、結果的に投資家への説明責任を果たすことにつながると思います。また、中長期的な視点では、GTCC、原子力、防衛といった伸長事業に続く新たな価値創造の軸を育てていくことが求められます。
取締役会に報告される整理された情報だけでは、守りのガバナンスを効かせることはできません。自ら現場に足を運び、実態を把握することが必要ですが、社外取締役だけでできることには限界があります。この点、当社グループでは常勤監査等委員から拠点・現場視察を含む報告を受けられるほか、監査等委員会の事務局による支援も手厚く、しっかりとした体制が築かれています。
不祥事の早期発見・未然防止のための内部通報制度も重要です。現場で働く人が「おかしい」と感じたときに安心して声を上げられ、通報した人が確実に守られる仕組みと心理的安全性が欠かせません。当社グループには既に長い期間にわたる制度運用実績がありますが、運用については今後も磨き続ける必要があります。
役員指名・報酬委員会は、独立社外取締役が委員長を務め、社外取締役が過半数を占めています。委員会が取締役会の議案を自ら発議できるようになったことで、透明性と健全性が一段と高まりました。CEOの後継者選任については、平時から「次の次」まで見据えて丁寧に育成・選考する仕組みが整っており、候補者と社外取締役が直接対話する機会があるなど、非常に優れた取り組みがなされていると評価しています。取締役会の多様性は、性別や国籍よりも、国際経験や経営経験、技術に関する知見など、取締役が有するスキル、経験や資質について、多様な視点を取締役会の議論にどのように活かして価値創造につなげていくかが本質だと考えます。
当社グループは、必ずしも株主価値だけでは測れない大きな価値を併せ持っています。例えば、長年蓄積してきた機械工学の知見は、経験に裏打ちされた技術資産であり、AIによって簡単に置き換えられるものではなく、これには大きな価値があります。質の高い情報開示と投資家との対話を通じて、当社グループの強みと価値を具体的に伝え、中長期的視点で会社を支える株主を増やしたいと考えています。世界に誇る技術を活かした製品やサービスを提供し、社会に価値を提供しながら、自律的な経営による価値創造を続けられるようにすることが、社外取締役としての私の使命です。