国際政治の不安定化に伴い、安全保障意識の高まりやサプライチェーン寸断リスクの増大など事業環境は劇的に変化しています。これらは一般的に「リスク」と捉えられがちですが、私は、当社グループが社会課題の解決に貢献できる「機会」であると認識しています。
不確実な時代において、予測不可能な事態が発生した際でも、社会インフラの機能を維持し、または回復させ、事業の継続性(BCM)を担保することが、今まで以上に強く求められています。その中で、私たちがキーワードとして掲げたのが「レジリエンス」です。当社グループにとってのレジリエンスとは、想定外や突発的な大きな変化が起きても、人々の生活や仕事、社会活動を止めないことであり、そのための製品・サービスを提供することです。
安全・安心の実現や、エネルギーの安定供給といったミッションクリティカルな分野において、当社グループが有するGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)、原子力、防衛などの事業領域は、極めて高い親和性を持っています。お客様が抱えるリスクを軽減し、社会インフラの強靭化等に寄与するソリューションを提供できるのは、幅広い製品と技術を持つ三菱重工グループならではの強みです。
レジリエンスという概念を軸に長期的な成長戦略を構想することで、私たちがどの領域で新たな価値を創出できるのかが明確になります。多様化するニーズの先を読み、いかなる環境変化が起きても揺るがない社会インフラの構築に、真正面から取り組んでいきます。
領域拡大を実現する上での最大の武器は「共通基盤」です。当社グループが手掛ける多様な製品の深層には、技術、顧客、人材、サプライチェーン、デジタル・AIという強固な共通基盤が存在します。この共通基盤こそが、他社にはない圧倒的な強みの源泉です。
その一例が、防衛分野における研究開発です。近年、超音速や極超音速ミサイルの開発が急務となっていますが、そこで求められる超高温環境下での冷却技術やコーティング技術は、ガスタービン開発で既に確立されています。ゼロから開発すれば5年、10年を要するものでも、共通基盤を活用して既存技術を転用すれば短期間での開発が可能です。また、人材面では、総合研究所の人員を必要な局面に一気に集中投入し、課題が解決すれば元の持ち場に戻るという機動的なリソース配分を行っています。このように、共通基盤は当社グループの圧倒的な開発スピードや課題への対応力を支えています。
一方、自前主義に陥るのではなく、外部とのパートナリングも積極的に活用しています。新規開発にあたり、必要な技術の95%は社内でまかなえますが、残りの5%は国内外の大学やスタートアップなどとのオープンイノベーションによって補完しています。既存の事業領域から派生する形で技術や製品をかしこく組み合わせることで、スタートアップ以上のスピード感で新たなソリューションを生み出す。これこそが、共通基盤を活かして新たに領域を拡大していく、三菱重工グループ独自のイノベーションの形です。
こうした共通基盤の掛け合わせから実現した象徴的な事例が、高セキュリティ型のエッジデータセンター「DIAVAULT(ディアヴォルト)」です。AIの普及に伴い、データセンターの需要は急増していますが、オンプレミス環境※3での高い処理能力や、安定稼働の実現、機密情報の保護がこれまで以上に求められています。私たちは10年ほど前からこれらのニーズを先読みして準備を進めてきました。エンジンや冷熱技術を応用した高効率な発電・冷却モジュールに加え、原子力分野のキャスク(使用済燃料貯蔵容器)に代表される堅牢な構造技術を組み合わせることで、極めてレジリエンスの高い分散型のデータセンターを実現しています。
このほかにも、機械システム分野で培ったシンガポールの次世代ERP(電子道路課金制度)の高度な通信・ネットワーク技術は宇宙事業の拡大に寄与していますし、無人機(ドローン)の開発も、防衛に加えて農業や防災などの幅広い産業への応用が期待されます。これらは、強固な共通基盤があるからこそ手掛けることができますし、リスクを抑えながら事業領域を拡大することができます。
※3 クラウドではなく、自社施設内にサーバーを設置してデータを管理・処理する環境。
▍エッジデータセンター「DIAVAULT」